株式を無償で譲渡すると税金はかかる?計算例と手続きも解説

対価を受け取らずに株式を相手へ譲り渡すことを「無償の株式譲渡」といいます。子などの親族を後継者として事業承継をするときや、相続対策として生前贈与をするときに選ばれることが多い手法です。
中小企業のオーナーが自社株を無償で譲渡すると、受け取る側に贈与税が、渡す側に所得税・住民税がそれぞれ課税される場合があります。
この記事では、株式を無償で譲渡したときに課税対象になる税金の種類と計算方法、負担を抑える方法、手続きの流れを、相続税専門の税理士が解説します。
この記事の目次 [表示]
1.無償の株式譲渡にかかる税金は譲渡する相手で決まる
自社株を無償で譲渡すると、以下のような税金が課される可能性があります。
〇無償の株式譲渡をすると課税対象になる税金
| 譲渡する相手 | 譲渡する側 | 受け取る側 |
|---|---|---|
| 後継者などの個人 | 原則として課税されない | 贈与税 |
| 同族会社以外の法人 | 譲渡益に課される所得税※1・住民税 | 受贈益に課される法人税 |
| 同族会社 | 譲渡益に課される所得税※1・住民税 | 受贈益に課される法人税 |
| 従業員 | 原則として課税されない※2 | オーナー個人からの譲渡:贈与税 会社からの譲渡:所得税※1・住民税 |
※譲渡する株式の評価額や適用する制度によって、税額が0円になることや、納税が猶予されることがあります。
※1:所得税には、所得税額に2.1%をかけた復興特別所得税が上乗せされます。令和9年(2027年)分から2.1%のうち1%が防衛特別所得税に替わりますが、合計の税率は変わりません。
※2:会社が持っている自社の株式(自己株式)を譲渡する場合、取得時よりも株価が上昇していたとしても、法人税の計算上は譲渡益が生じたとはみなされません。
以下では、個人・法人・同族会社・従業員に対して、自社株を無償で譲渡したときに課税対象となる税金について詳しく解説します。
1-1.個人に譲渡する株式は贈与税の課税対象になる
後継者の子など個人へ自社株を無償で譲渡すると、受け取った人は贈与税の課税対象になりますが、オーナー本人は原則として課税されません。
通常、贈与税は「暦年課税」で計算します。暦年課税とは、1月1日から12月31日までに受け取った財産の合計から、基礎控除110万円を差し引いた部分に課税する方式のことです。

年間の贈与額が合計で110万円以下であれば、贈与税はかからず、申告も不要です。
贈与税の税率には、以下の2種類があります。
〇贈与税の税率
- 特例税率:18歳以上の子や孫が父母や祖父母から受けた贈与の税率(年齢は贈与年の1月1日時点)
- 一般税率:上記以外の特例税率の対象にならない贈与の税率
株式を贈与したときの評価方法や贈与税の計算、手続きについて詳しくは、以下の記事で解説していますのであわせてご覧ください。
参考:【株式の贈与】評価方法や贈与税の計算、手続きを税理士が解説
1-2.法人に譲渡するとオーナーの譲渡益に所得税がかかる
法人へ自社株を贈与して利益(譲渡所得)が生じると、オーナー本人に所得税・住民税がかかります。この場合、贈与された株式は「みなし譲渡」の対象になるためです。
〇みなし譲渡とは
- 法人へ財産を贈与したときなどに、その時の時価で売ったものとして譲渡所得を計算する扱い(所得税法第59条第1項)
株式の譲渡所得の金額は、「総収入金額(譲渡価額)−必要経費(取得費+委託手数料等)」で計算します。
みなし譲渡では、株式を贈与した時点の時価が総収入金額(譲渡価額)になります。取得費は、株式を取得したときに払い込んだ出資額などです。
譲渡した株式の時価が取得費などの必要経費を下回り、譲渡益が生じないのであれば、所得税・住民税はかかりません。
譲渡益にかかる税率は20.315%(所得税・復興特別所得税:15.315%+住民税:5%)です。
※令和8年(2026年)10月現在の税率
※令和9年(2027年)分からは、所得税に上乗せする税が、復興特別所得税(2.1%)から防衛特別所得税(1%)と復興特別所得税(1.1%)に分かれますが、合計の20.315%は変わりません。
なお、株式を受け取った法人は、その株式の時価を「受贈益(無償で受け取った利益)」として事業年度の所得に加えて法人税を計算します。
みなし譲渡について詳しくは、以下の記事で解説していますのであわせてご覧ください。
参考:みなし譲渡とは?所得税・消費税がかかる場合について税理士が解説
1-3.同族会社に譲渡するとほかの株主にみなし贈与が生じる
資産管理会社のような同族会社へ自社株を無償で譲渡すると、その会社とオーナー以外の株主に贈与税が課税される場合もあります。
〇同族会社とは
- 上位3人以下の株主と、その親族など特別な関係がある個人・会社が、発行済株式(自己株式を除く)の50%超を持つ会社など(法人税法第2条第10号)
自社株を無償で受け取った同族会社は保有する財産が増えることになるため、その影響により会社の株価が上がる場合があります。
この場合、株価の上昇分は株主に対する「みなし贈与」として贈与税の課税対象となります。
〇みなし贈与とは
- 対価を払わずに利益を受けた人が、その利益を受けさせた人から贈与を受けたものとみなされること(相続税法第9条)
なお、ほかの株主が1年間に受け取った財産の合計が、みなし贈与の額を含めて110万円以下である場合、贈与税はかかりません。
みなし贈与について詳しくは、下記記事で解説していますのであわせてご覧ください。
参考:みなし贈与とは?該当するケース・回避する方法を事例で解説
1-4.従業員に譲渡する株式は贈与税か所得税の課税対象になる
従業員に自社株を無償で譲渡する場合、以下のような税金が課税される可能性があります。
〇従業員に株式を無償で譲渡したときの税金
| 譲渡する人 | 受け取る側の税金 | 譲渡する側の扱い |
|---|---|---|
| オーナー個人 | 贈与税の課税対象 (親族でない従業員は一般税率) | 原則として課税されない |
| 会社 | 給与所得※1として所得税※2・住民税の課税対象 | 給与として損金に算入が可能※3 |
※1:業務と関係のない贈与は一時所得となります。
※2:所得税には、所得税額に2.1%をかけた復興特別所得税が上乗せされます。令和9年(2027年)分から2.1%のうち1%が防衛特別所得税に替わりますが、合計の税率は変わりません。
※3:役員に贈与すると役員給与となり、原則として損金に算入できません。
従業員がオーナー個人から受け取った株式は原則として贈与税の課税対象ですが、同じ年に贈与された財産の合計が110万円以下であれば申告・納税は不要です。
一方、従業員が会社から受け取った自社株は、贈与税の課税対象になりません。法人から受け取った財産には贈与税がかからないと、相続税法で定められているためです(相続税法第21条の3第1項第1号)。
ただし、従業員が勤務先から無償で受け取った株式は、所得税・住民税の課税対象です。業務に関連して受け取ったときは給与所得、それ以外のときは一時所得になります。
法人から個人へ財産を贈与したときの税金は、以下の記事で詳しく解説していますのであわせてご覧ください。
参考:法人から個人への贈与・個人から法人への贈与にかかる税金│非課税枠も解説!
2.譲渡する相手によって異なる非上場株式の評価方法
中小企業の自社株など市場で売買されていない非上場株式は、受け取る人と税金の種類によって評価額の求め方が決まります。
以下では、非上場株式の評価方法を解説します。
2-1.後継者に譲渡する株式は原則的評価方式で評価
後継者となる子などの親族へ自社株を譲渡すると、贈与税の計算では通常「原則的評価方式」で株式を評価します。親族である後継者は「同族株主」に当たるためです。
原則的評価方式には、類似業種比準方式と純資産価額方式の2種類があります。
〇同族株主とは
- 株主の1人とその親族などで議決権全体の30%以上(50%超を持つグループがある会社では50%超)を持つグループの株主
〇類似業種比準方式と純資産価額方式
- 類似業種比準方式:事業内容が似ている上場会社の株価をもとに配当・利益・純資産の3要素を自社と比べて計算する方法
- 純資産価額方式:原則として相続税の評価額で計算し直した資産から含み益にかかる法人税額等相当額と負債を差し引いて求める方法
同族株主に当たるかは、後継者とその親族などが株式を受け取った後に持つ議決権の合計で判定します。
原則としては、会社の規模を大会社・中会社・小会社に分け、それぞれ以下の方式を用いて評価します。
〇会社の規模と原則的評価方式の計算方法
- 大会社:類似業種比準方式
- 中会社:類似業種比準方式と純資産価額方式の併用
- 小会社:純資産価額方式
なお、同族株主であっても役員ではない親族で、株式を受け取った後の議決権の割合が5%未満の人などは配当還元方式で評価する場合があります。
類似業種比準方式や純資産価額方式の計算方法は、以下の記事で詳しく解説していますのであわせてご覧ください。
2-2.同族株主以外に譲渡する株式は配当還元方式で評価
親族ではない従業員など、同族株主に当たらない人が受け取った自社株は、「配当還元方式」で評価します。
〇配当還元方式とは
- その株式で1年間に受け取る配当金額を10%で割って、株式の価額を求める評価方法
配当還元方式で1株当たりの評価額を求める計算式は、以下のとおりです。
- 1株当たりの評価額:年配当金額÷10%×1株当たりの資本金等の額÷50円
配当還元方式で求めた金額が原則的評価方式で計算した額を上回るときは、原則的評価方式で評価します。
年配当金額の求め方など、配当還元方式の計算について詳しくは、以下の記事で解説していますのであわせてご覧ください。
参考:【配当還元方式とは】適用要件や非上場株式の評価・計算方法を解説
2-3.法人に譲渡する株式は所得税の基準で評価
先述のとおり、法人へ自社株を無償で譲渡すると、オーナーは株式を時価で売ったものとみなされます。売却により生じた譲渡益は、所得税・住民税の課税対象です。
譲渡益を求める際、自社株の時価は原則として後継者へ贈与するときと同じ方法(原則的評価方式など)で評価しますが、贈与税の計算とは一部異なる点があります。
たとえば、純資産価額方式で自社株を評価する場合、会社が保有している同じ土地でも所得税・住民税を計算するときのほうが、評価額は高くなることがあります。
贈与税では路線価などで土地を評価するのに対し、所得税・住民税では時価を用いるためです。
贈与税と所得税・住民税の計算において主な相違点は、以下のとおりです。
〇贈与税と所得税・住民税の計算条件
| 項目 | 贈与税 | 所得税・住民税 |
|---|---|---|
| 課税対象になる人 | 株式を受け取った個人(後継者など) | 法人へ株式を譲渡した個人(オーナー) |
| 根拠となる通達 | 財産評価基本通達 | 所得税基本通達59-6 |
| 同族株主の判定に用いる議決権 | 受け取った人が取得した後の議決権 | 譲渡した人が譲渡する直前の議決権 |
| 会社規模の区分 | 会社の規模に応じて大会社・中会社・小会社 | 譲渡したオーナーが中心的な同族株主に当たるときは常に小会社 |
| 非上場会社が持つ土地や上場株式の価額 | 相続税評価額 | 譲渡した時の時価 |
| 評価差額に対する法人税額等相当額の控除 | 控除する | 控除しない |
上記の「中心的な同族株主」とは、同族株主のうち、本人と配偶者、親や子・孫、兄弟姉妹、義理の両親などが持つ議決権を合わせて25%以上になる株主のことです。
議決権の過半数を持つオーナーは、中心的な同族株主に当たります。
また、表にある「評価差額に対する法人税額等相当額」は、会社の資産を相続税の評価額で計算し直したときに帳簿の金額を上回る分(含み益)に、法人税などがかかったと仮定した額です。
贈与税の計算では、この金額を純資産価額方式で求めた純資産から差し引きますが、所得税・住民税については差し引きません。
法人へ自社株を譲渡する前に、所得税の基準で時価を計算し、譲渡益の有無や額、それに課される所得税等も確認するのが望ましいでしょう。
3.株式を無償で譲渡したときの贈与税をシミュレーション
では、オーナー個人が後継者へまとめて株式を無償で譲渡すると、いくらの贈与税が発生するのでしょうか。
ここでは、父が後継者の長男へ自社株を贈与すると仮定して贈与税額を試算します。
【例】令和8年(2026年)中に、父(同年1月1日に70歳)が後継者の長男(同日に40歳)へ、相続税評価額3,000万円の自社株を一度に贈与したと仮定します。
評価額の3,000万円は、原則的評価方式で求めた額です。
基礎控除後の課税価格を算出
暦年課税では、1年間に受け取った財産の合計から基礎控除110万円を差し引きます。
長男はこの年にほかの贈与を受けていないため、年間の贈与額は合計3,000万円です。基礎控除後の課税価格は、以下のとおりです。
- 基礎控除後の課税価格:自社株の評価額3,000万円−基礎控除110万円=2,890万円
贈与税額を算出
暦年課税の贈与税は、「基礎控除後の課税価格×税率−控除額」で求めます。
長男は贈与を受けた年の1月1日に18歳以上であり、父からの贈与であるため、特例税率を用います。課税価格に応じた税率と控除額は、以下のとおりです。
〇特例税率による贈与税の速算表
| 基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
|---|---|---|
| 200万円以下 | 10% | - |
| 400万円以下 | 15% | 10万円 |
| 600万円以下 | 20% | 30万円 |
| 1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
| 1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
| 3,000万円以下 | 45% | 265万円 |
| 4,500万円以下 | 50% | 415万円 |
| 4,500万円超 | 55% | 640万円 |
※出典:国税庁「No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)」
※令和8年(2026年)10月現在
基礎控除後の課税価格が2,890万円の場合、税率は45%、控除額は265万円となるため、特例税率で求めた贈与税額は、以下のとおりです。
- 贈与税額:2,890万円×45%−265万円=1,035万5,000円
長男が納める贈与税は、1,035万5,000円と算出されました。
※数値は一例です。実際の評価額と贈与税額は、会社の財産・業績や家族の状況によって変わります。
このように、評価額の高い自社株を一度に無償で譲渡すると後継者が納める贈与税は1,000万円を超えることもあるため、あらかじめ税額を計算して納税資金を準備しておきましょう。
贈与税の計算方法と速算表の使い方について詳しくは、以下の記事で解説していますのであわせてご覧ください。
参考:贈与税を計算しよう!【シミュレーションツール付き】税理士が解説
参考:贈与税の速算表の使い方を解説。一般、特例の違いや非課税制度など
4.贈与税の負担を抑えて自社株を譲渡する方法
自社株を暦年課税でまとめて贈与すると、高額な贈与税が課されかねません。後継者が納める贈与税の負担を抑えたいときは、以下のような方法があります。
〇贈与税の負担を抑える主な方法
- 事業承継税制の特例措置を適用して贈与税の納税猶予を受ける
- 年110万円の基礎控除の範囲で毎年少しずつ贈与する
- 相続時精算課税制度を選択して累計2,500万円の特別控除を適用する
※令和8年(2026年)10月現在の内容
ここでは、それぞれの方法について、仕組みと注意点を解説します。
4-1.事業承継税制で納税の猶予を受ける
後継者へ自社株を贈与する際に、「事業承継税制の特例措置」の適用要件を満たすと、後継者は贈与税の全額について納税が猶予されます。
〇事業承継税制(法人版事業承継税制)とは
- 後継者が贈与や相続で受け取った非上場株式について、一定の要件を満たす場合に贈与税や相続税の納税を猶予する制度。先代経営者や後継者の死亡など所定の事由が生じた場合に猶予税額の全部または一部が免除される
事業承継税制には、期限付きの「特例措置」と、期限のない「一般措置」があります。
特例措置を適用するには、後継者や株式を承継した後の事業計画などを記載した「特例承継計画」を、会社が都道府県知事へ提出しなければなりません。
特例措置と一般措置の主な内容は、以下のとおりです。
〇事業承継税制の特例措置と一般措置
| 項目 | 特例措置 | 一般措置 |
|---|---|---|
| 納税猶予割合 | 贈与税・相続税とも100% | 贈与税100%・相続税80% |
| 対象になる株式数 | 全株式 | 総株式数の3分の2まで |
| 後継者の人数 | 最大3人 | 1人 |
| 雇用確保要件 | 原則として承継後5年間の平均雇用人数が承継時の8割以上 | 承継後5年間の平均雇用人数が承継時の8割以上であることが必須 |
| 特例承継計画の提出 | 令和9年(2027年)9月30日までに提出が必要 | 不要 |
※令和8年(2026年)10月現在の内容
一般措置の場合、雇用確保要件を満たせないと猶予は取り消されます。一方、特例措置については8割を下回っても、理由を記載した報告書を都道府県知事へ提出して確認を受けると猶予が継続されます。
ただし、どちらの措置についても贈与税の申告期限後、原則5年間は、後継者が株式の一部を譲渡したり、やむを得ない理由なく代表者を退いたりすると猶予は取り消される点には注意が必要です。
取り消された場合、猶予されていた贈与税の全額と利子税を納めなければなりません。
事業承継税制の要件や手続きの流れ、活用すべきケースなどは、以下の記事で詳しく解説していますのであわせてご覧ください。
参考:事業承継税制とは?要件・期限・手続きの流れをわかりやすく解説
参考:【事業承継税制のデメリット】問題点や活用すべきケースを解説
4-2.毎年少しずつ贈与する
自社株を何年かに分けて贈与し、後継者が1年間に受け取る財産を110万円以下に収めると贈与税はかかりません。
たとえば、父が長女へ1株5万円の自社株200株(計1,000万円)を贈与するとしましょう。
この場合、評価額が変わらなければ、毎年22株(110万円)ずつ贈与すると10年目で贈与し終えます。
自社株を複数人に分けて数年にわたり贈与すると、受け取る人ごとに基礎控除を差し引けるため、税負担を抑えながらより多くの株式を生前に引き継げます。
ただし、複数の親族に株式を贈与すると議決権が分かれてしまうため、後継者が過半数を持てる範囲で贈与しましょう。
暦年課税で贈与する仕組みや、相続税対策への活用方法について詳しくは、以下の記事で解説していますのであわせてご覧ください。
参考:暦年贈与とは?改正のポイントや相続税対策に活用する方法
4-3.相続時精算課税制度を利用して贈与する
自社株の評価額が高く、後継者が1年間に受け取る財産の合計が110万円を超えるときは、一定の要件を満たしていれば「相続時精算課税制度」を選ぶことも可能です。
相続時精算課税制度は、贈与した人が亡くなったときに、生前に受け取った財産を相続財産に足し戻して相続税を計算する制度です。

この制度には、以下のような特徴があります。
〇相続時精算課税制度の主な特徴
- 60歳以上の父母・祖父母などから、18歳以上の子・孫などへの贈与で選べる(年齢は贈与年の1月1日時点)
- 累計2,500万円までの贈与には贈与税がかからず、超えた部分は一律20%の税率で課税される
- 令和6年(2024年)1月1日以後の贈与は、特別控除2,500万円とは別に年110万円の基礎控除を差し引ける
※令和8年(2026年)10月現在の内容
贈与した財産が特別控除2,500万円と年110万円の基礎控除を超えなければ贈与税がかからないため、評価額の大きい自社株を後継者へ一度に贈与しても、税負担を抑えることが可能です。
相続財産に足し戻す金額は、受け取った年ごとに贈与された財産の合計評価額から基礎控除110万円を差し引き、それらを合計します。
贈与した当時の価額で評価されるため、贈与後に自社株の株価が上がっても、足し戻す金額は増えません。
後継者は、贈与する人それぞれについて相続時精算課税制度を選べます。ただし、一度この制度を選択すると、その人からの贈与は暦年課税に戻せません。
この制度の仕組みとメリット・デメリットは、以下の記事でも解説していますのであわせてご覧ください。
参考:相続時精算課税制度とは?仕組み・メリット・デメリットも解説
5.自社株を贈与するときの注意点
後継者へ生前に贈与した自社株も、相続税や遺留分の計算に含まれることがあります。ここでは、自社株を贈与する前に確認しておきたい点を解説します。
5-1.生前贈与加算の対象になると相続税の課税対象になる
相続や遺贈でほかの財産も受け取る後継者に、暦年課税で自社株を贈与すると、オーナーが亡くなり相続が発生したときに、その自社株が「生前贈与加算」の対象になる可能性があります。
〇生前贈与加算とは
- 相続や遺贈で遺産を受け取った人が被相続人から亡くなる前の一定期間内に暦年課税で贈与された財産を、相続財産に加えて相続税を計算する制度(相続税法第19条)
加算の対象になる期間は、令和8年(2026年)までの相続では亡くなる前3年以内ですが、令和9年(2027年)以後は段階的に延長され、令和13年(2031年)からは7年以内となります。
暦年課税で少しずつ自社株を贈与して贈与税の負担を軽減できても、生前贈与加算の対象になると後継者が納める相続税は高くなる可能性があります。
生前贈与加算の対象になる株式を減らすためには、自社株の贈与を早めに始めることも検討しましょう。
また、相続や遺贈で財産を受け取らない孫など、基本的に生前贈与加算の対象にならない人へ自社株を贈与するのも1つの方法です。
生前贈与加算の対象者や改正の内容は、以下の記事で詳しく解説していますのであわせてご覧ください。
参考:生前贈与加算とは?対象者・相続税改正内容・生前贈与の注意点を解説
5-2.定期贈与とみなされると最初の年に贈与税が課される
自社株を何年かに分けて贈与するときに、「毎年100万円ずつ10年間」のような取り決めをすると、「定期贈与」とみなされる場合があります。
定期贈与とみなされると、一定期間分の財産がまとめて贈与されたものとみなされ、「定期金に関する権利」として受け取った側に贈与税が課されるかもしれません。
定期贈与とみなされないようにするためには「自社株を贈与するたびに贈与契約書を作成する」「贈与する時期や株数を年ごとに変える」などの方法があります。
定期贈与の判断基準や対策方法は、相続税の専門知識がなければ分かりにくいため、自社株を譲渡するときは相続税専門の税理士に相談しましょう。
贈与契約書の作り方やほかの回避方法は、以下の記事で詳しく解説していますのであわせてご覧ください。
参考:定期贈与(連年贈与)と判断されない3つの回避方法│税理士が解説
5-3.民法特例で自社株を遺留分の計算から外せる
兄弟姉妹以外の相続人には「遺留分」があります。
〇遺留分とは
- 相続人が最低限受け取れるよう法律で保障された遺産の取り分(民法第1042条)
後継者に贈与した自社株が遺留分の計算に含められてしまうと、ほかの相続人から、それぞれの取り分に足りない金額を支払うよう要求される可能性があります。
ただし、一定の要件を満たす中小企業では経営承継円滑化法の「民法特例」を適用すると、こうした支払いの要求を防げる場合があります。
民法特例で結べる合意は、自社株を遺留分の計算から外す「除外合意」と、その価額を合意した時点の額に固定する「固定合意」の2種類です。
いずれも、後継者とオーナーの推定相続人(配偶者や子など)全員が書面で合意を結び、後継者が経済産業大臣の確認と家庭裁判所の許可を得ると効力が生じます。
除外合意・固定合意と遺留分侵害額請求について詳しくは、以下の記事で解説していますのであわせてご覧ください。
参考:除外合意・固定合意とは?遺留分に関する民法の特例を解説
参考:遺留分侵害額請求とは?請求できるケース・時効・やり方・計算方法を解説
6.株式を無償で譲渡するメリット・デメリット
自社株を後継者へ引き継ぐときは、無償で譲渡するほか、売却することも可能です。
どちらにするか決める際は、無償で譲渡する主なメリットとデメリットをよく理解することが大切です。
〇株式を無償で譲渡する主なメリット・デメリット
| メリット | デメリット |
|---|---|
|
|
6-1.無償で譲渡する主なメリット
株式を無償で譲渡するのであれば、後継者は買い取るための代金を用意する必要はありません。
売買代金の額や支払方法、振込手数料を負担する人を話し合って決める手間がなく、代金を振り込む手続きも不要です。
株式を売る場合と同じく、無償で譲渡しても会社の株主が替わるのみであるため、会社の資産や取引先との契約などは原則として変わらず、従業員の雇用も続きます。
6-2.無償で譲渡する主なデメリット
無償で自社株を譲渡すると、当然ながら売却代金は得られないため、引退後の生活資金などはほかの財産で準備することになります。
後継者などの個人に譲渡すると、売却代金を支払う必要はないものの、受け取った人に贈与税が課税される場合があります。
法人に自社株を譲渡したことで譲渡益が生じたときは、オーナー本人が譲渡所得の所得税・住民税を納めなければなりません。
株式の議決権は取得した人へ移るため、オーナーの手元に残る割合が半分以下になると、役員の選任などを決める株主総会の「普通決議」を単独では可決できなくなります。
7.譲渡承認から申告までの手続きの流れ
自社株を無償で譲渡するときは、会社の承認や株主名簿の書き換えなどの手続きをする必要があります。また、必要に応じて譲渡した翌年に贈与税や所得税の申告・納税も行います。
手続きの流れは以下のとおりです。
〇株式を無償で譲渡する手続きの流れ
- 会社に譲渡の承認を請求する
- 取締役会か株主総会で承認を得る
- 2週間以内に会社から決定の通知を受ける
- 株式の贈与契約書を作成する
- 株券発行会社の場合は株券を相手に交付する
- 株主名簿の名義書換を請求する
- 期限までに申告・納税する
7-1.会社に譲渡の承認を請求する
中小企業が発行する株式の多くは「譲渡制限株式」です。
〇譲渡制限株式とは
- 他人に譲渡するには会社の承認が必要であると定款で定められている株式
自社株が譲渡制限株式の場合、オーナーは原則として譲渡する前に後継者などが株式を取得することを承認するよう会社に請求します。
会社側の承認を得ずに譲渡すると、受け取った人は、株主名簿を自分の名義に書き換えるよう請求できません。
請求の際は、譲渡する株式の数や受け取る人の氏名(法人は名称)を記載した書面を会社に提出するのが一般的です。
なお、定款に譲渡制限の定めがないのであれば、会社の承認を得ることなく譲渡できます。
7-2.取締役会か株主総会で承認を得る
オーナーから請求を受けた会社は、取締役会で譲渡を認めるかどうかを決めます。取締役会を置いていない会社では、株主総会の決議が必要です。
ただし、定款で上記とは別の承認方法を定めている会社もあるため、事前に記載内容を確認しておきましょう。
株主総会で承認する会社の場合、議決権を持つ株主全員が、譲渡を承認するという議案に書面かメールなどで同意すると可決したとみなされます。
株主がオーナーと家族のみの会社であれば、この方法を用いることで総会を開かずに承認手続きを済ませることも可能です。
7-3.2週間以内に会社から決定の通知を受ける
取締役会や株主総会などで承認の可否が決まると、オーナーには請求の日から2週間以内に会社からその結果が通知されます。
通知がないまま2週間を過ぎると、原則として会社は譲渡を承認したものとみなされます。
7-4.株式の贈与契約書を作成する
会社の承認を得たら、株式を受け取る人と株式の贈与契約書を作成しましょう。
贈与は口約束でも成立しますが、契約書などの書面がないと、株式を移す手続きが終わるまではオーナーと受け取る人のどちらからでも取りやめることができてしまうためです。
贈与契約書に記載する内容は以下のとおりです。
〇株式の贈与契約書に記載する主な事項
- 贈与する人(オーナー)と受け取る人の氏名・住所
- 贈与する株式の発行会社名・種類・株数
- 双方が株式の贈与に合意したこと
- 株式を贈与する日
- 会社の譲渡承認を得ていること
- 契約書の作成日と、双方の署名・押印
贈与契約書の書き方と雛形について詳しくは、以下の記事で解説していますのであわせてご覧ください。
参考:【雛形つき】贈与契約書とは?書き方・生前贈与の注意点を解説!
7-5.株券発行会社の場合は株券を相手に交付する
株券を発行すると定款で定めている会社を「株券発行会社」といいます。株券発行会社の場合、オーナーは株式を受け取る人へ株券を交付しなければなりません。
一方、定款に株券を発行する定めがない「株券不発行会社」の場合、この手続きは不要です。
株式を譲渡する前に、会社の定款や登記事項証明書で、株券に関する定めの内容を確認しておきましょう。
7-6.株主名簿の名義書換を請求する
株式を受け取った人は、自分の氏名・住所や、受け取った株式の数・取得日を株主名簿に記載するよう会社に請求します。この手続きを「名義書換」といいます。
名義書換をしないと、受け取った人は原則として会社に対して自分が株主だと主張できません。
株券不発行会社であれば、会社以外の人に対しても、自分が株主だと主張できなくなります。
株券発行会社では、受け取った人が株券を会社に提示すると単独で名義書換を請求できます。一方、株券不発行会社の場合、原則として受け取った人と譲渡したオーナーが共同で請求しなければなりません。
7-7.期限までに申告・納税する
株式を譲渡した後は、必要に応じて期限までに税金の申告・納付をします。各税金を申告する人と申告・納付期限は以下のとおりです。
〇申告する人と期限
| 税金 | 申告する人 | 申告・納付の期限 |
|---|---|---|
| 贈与税 | 1年間(1月~12月)に受け取った財産が合計110万円を超えた個人 | 受け取った年の翌年2月1日から3月15日まで |
| 所得税 | 法人に譲渡して譲渡益が生じたオーナー | 譲渡した年の翌年2月16日から3月15日まで |
| 法人税 | 株式を受け取った法人 | 事業年度が終わった日の翌日から原則として2ヶ月以内 |
※オーナーの住民税は、所得税の確定申告の内容をもとに市区町村が計算するため、基本的には別途申告する必要はありません。
贈与税と所得税は、原則として納税者の住所地を管轄する税務署に申告します。法人税の場合、申告書の提出先は本店または主たる事務所の所在地を管轄する税務署です。
税金が発生しているにもかかわらず、期限までに申告しないと加算税や延滞税が課せられる可能性があります。
自社株を無償で譲渡したときは、オーナーと株式を受け取った人のそれぞれについて課税対象になる税金を確認し、必要に応じて期限内に申告・納税を済ませましょう。
贈与税の申告で提出する書類は、以下の記事で詳しく解説していますのであわせてご覧ください。
参考:贈与税の申告の必要書類を解説!ケース別の添付書類・注意点
8.無償の株式譲渡に関するよくある質問
最後に、無償の株式譲渡についてよくある質問に回答します。
8-1.時価より安く譲渡すると税金はかかる?
個人に対して、時価(相続税評価額)よりも著しく低い金額で株式を売却すると、差額が買った人への贈与とみなされて贈与税が課されることがあります。
また、法人に対して所得税の基準で求めた時価の2分の1未満の金額で株式を売却すると、時価で譲渡したものとみなされます。
これにより生じた譲渡益についても、所得税・住民税の課税対象です。
時価の2分の1以上でも、同族会社への譲渡でオーナーの税負担を不当に減らしたと判断されると、時価で計算し直されることがあります。
「著しく低い価額」の基準について詳しくは、以下の記事で解説していますのであわせてご覧ください。
参考:著しく低い価額とは?基準は?相続税法上の意味をわかりやすく解説
8-2.法人同士で株式を譲渡したときの税金は?
法人同士で株式を無償で譲渡すると、原則として「譲渡した法人の譲渡益」と「受け取った法人の受贈益」が法人税の課税対象になります。
譲渡した法人は株式を時価で売却したものとして、受け取った法人は時価に相当する利益を得たものとして、法人税を計算するためです。
ただし、国内の親会社と100%子会社の間で行われた無償譲渡の場合、受贈益に法人税はかかりません。
法人が関わる贈与の税金については、以下の記事で詳しく解説していますのであわせてご覧ください。
参考:法人から個人への贈与・個人から法人への贈与にかかる税金│非課税枠も解説!
8-3.法人から個人に株式を譲渡したときの税金は?
法人から無償で取得した株式は、贈与税ではなく所得税・住民税の課税対象になります。
役員や従業員が勤務先から受け取った場合は、原則として株式の時価が賞与とみなされ、給与所得になります。それ以外の個人が業務と関係なく受け取った場合は、原則として一時所得です。
一方、法人が保有する株式を役員や従業員に報酬として無償で譲渡した場合、原則として株式の時価相当額が給与として扱われます。
従業員に支給した給与は、損金に算入できます。役員に支給した一時的な給与(役員給与)は、原則として損金に算入できません。
8-4.自社株を100%譲渡すると経営権はどうなる?
オーナーは議決権をすべて失い、役員の選任や定款の変更などは、株式を受け取った人や以前からの株主が株主総会で決めることになります。
株主総会での可決に必要な議決権の割合と、主な決議は以下のとおりです。
〇議決権の割合と株主総会で可決できる主な決議
| 決議の種類 | 可決に必要な議決権の割合 | 主な決議事項 |
|---|---|---|
| 普通決議 | 出席した株主の議決権の過半数 | 役員の選任・解任(監査役などの解任を除く)など |
| 特別決議 | 出席した株主の議決権の3分の2以上 | 定款の変更、事業の全部や重要な一部の譲渡、解散、合併、監査役の解任など |
発行されている株式のすべてを受け取った人は、上記の決議を単独で可決できます。
株主が複数いるときは、賛成した人の議決権が合計で必要な割合に達すると可決されますが、定款で決議の要件を変更している会社もあります。
持ち株比率と経営権の関係について詳しくは、以下の記事で解説していますのであわせてご覧ください。
参考:【経営者必読】会社を後継者にスムーズに事業継承する方法と相続対策
8-5.株式の贈与契約書に収入印紙は必要?
株式の贈与契約書には、収入印紙は不要です。
印紙税は、不動産の売買契約書や領収書など印紙税法が定める文書にのみかかる税金であり、株式の贈与契約書はそのどれにも当たらないためです(印紙税法第2条)。
8-6.名義のみを変えた株式は相続のときどうなる?
贈与の実態がなく、名義のみを家族などに変えた株式(名義株)は、元々の所有者が亡くなったときに相続財産として相続税の課税対象になります。
名義株にあたるかどうかは、取得資金を負担した人や配当の受取人、議決権を行使している人、名義人になった経緯などから総合的に判断されます。
自社株を生前に贈与するときは、贈与契約書を作成して株主名簿の名義書換を行い、議決権の行使や配当金の管理なども受け取った人に任せるようにしましょう。
名義株と名義預金の扱いや、名義株をめぐる事例は、以下の記事で解説していますのであわせてご覧ください。
参考:名義株式と名義預金の取扱い
参考:名義株に関する巨額の相続税更正処分の取り消し
8-7.後継者がいないときは第三者に無償で譲渡できる?
親族や従業員以外の第三者にも、自社株を無償で譲渡することは可能です。
手続きの仕方は親族に譲渡するときと同じであり、譲渡制限株式の場合は会社の承認が必要です。
ただし、受け取る相手が個人の第三者である場合、贈与税は一般税率で計算します。
一般税率は特例税率よりも高く設定されているため、18歳以上の子や孫に同じ金額を贈与するときと比べて、贈与税額が多くなることがあります。
9.自社株を無償で譲渡する前に税理士に相談しよう
自社株を無償で譲渡すると、相手が個人の場合は受け取った人に贈与税が、法人の場合はオーナーに所得税・住民税がかかる可能性があります。
いずれの場合も、税額は自社株の評価額をもとに計算されます。また、個人に贈与するときは、暦年課税と相続時精算課税のどちらを選ぶかで贈与税だけでなく将来の相続税も変わる場合があることを押さえるべきでしょう。
評価額の算定や制度の選択を誤ると、想定外の税負担が生じかねないため、株式を譲渡する前に相続税専門の税理士へ相談することをおすすめします。
相続税申告を専門とする税理士法人チェスターは、自社株の評価や事業承継税制のご相談も承っています。
事業承継の進め方や親族外承継・M&Aについては、グループの株式会社チェスターコンサルティングの事業承継対策支援サービスでご相談いただくことも可能です。
株式を譲渡する予定の方は、一度税理士法人チェスターへお問い合わせください。
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