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アパートは相続と生前贈与どっちがいい?メリットデメリットや評価額計算方法
賃貸アパートの所有者のみなさんは、次世代に「相続」と「生前贈与」のどちらの方法で引き継ぐべきかで悩まれていませんか?
相続税や贈与税といった納税負担の軽減を重視されるならば、アパートは相続を選択された方が有利になる可能性が高いです。
しかし「相続」と「生前贈与」のどちらを選ぶべきなのかはケースバイケースですので、必ず専門家に相談をした上で引き継ぐ方法を決めましょう。
この記事では、賃貸アパートの相続や生前贈与について解説をします。
1.アパート(賃貸)を引き継ぐ!相続と生前贈与どちらがいいか?
まずは賃貸アパートを「生前贈与」で引き継ぐのがおすすめのケースと、「相続」で引き継ぐがおすすめのケースを把握しておきましょう。
1-1.生前贈与がおすすめのケース
賃貸アパートの生前贈与とは、所有者の相続が発生する前にアパートの「建物」や「土地」を贈与することです。
しかしアパートの土地と建物の両方を贈与すると、贈与税の負担が増えてしまうため、賃貸収入(家賃収入)を産む「建物だけ」を生前贈与するケースが一般的です。
アパートの生前贈与がおすすめなのは、以下のようなケースです。
賃貸アパートの生前贈与がおすすめ
- 賃貸アパートの家賃収入を特定の人に取得させたい
- 賃貸アパートの所有者の所得を分散させたい
- 特定の人に引き継ぎたい
アパートを生前贈与するメリットやデメリットについては、「2.アパートを生前贈与で引き継ぐ!メリットとデメリット」で解説をします。
1-2.相続がおすすめのケース
賃貸アパートの相続とは、所有者の相続が発生した際に、相続人等がそのアパートの「建物」や「土地」を取得することです。
しかし、相続で賃貸アパートを引き継ぐ場合、遺言書がない限りは、相続人同士で誰が取得するのかを決める必要があります。
仮に特定の誰かに引き継ぎたい場合は、遺留分に配慮した上で、法的に有効な遺言書を準備しなければなりません。
アパートの相続がおすすめなのは、以下のようなケースです。
賃貸アパートの相続がおすすめ
- 相続税や贈与税などの納税負担を抑えたい
- アパートの賃貸収入を他人に譲る必要はない
- 特定の人にアパートを取得させる必要はない
アパートを相続するメリットやデメリットについては、「3.アパートを相続で引き継ぐ!メリットとデメリット」で解説をします。
2.アパートを生前贈与で引き継ぐ!メリットとデメリット
アパートを生前贈与で引き継ぐ場合の、メリットとデメリットについてまとめました。
2-1.アパートを生前贈与する4つのメリット
まずは、アパートを生前贈与で引き継ぐ、4つのメリットから確認していきましょう。
メリット①贈与財産の評価額が低く抑えられる
賃貸アパートを生前贈与すると、現金を生前贈与する場合と比較すると、贈与財産の評価額を低く抑えることができます。
例えば、現金5,000万円を生前贈与する場合、贈与税の課税対象額は4,890万円(5,000万円-基礎控除110万円)となります。
しかし賃貸アパートを生前贈与する場合、5,000万円で購入したとしても、贈与時の評価額は時価(実勢価格)の50~70%となるため、贈与財産の評価額を圧縮することができます。
メリット②贈与後の賃貸収入は受贈者のものになる
アパートを生前贈与すると、贈与成立後の賃貸収入(家賃収入)は、受贈者(贈与された人)の収入となります。
例えば、親が経営していた賃貸アパートを子供に贈与した場合、そのアパートの賃貸収入は、子の収入になるということです。
仮に年間200万円の収入がある賃貸アパートである場合、生前贈与をしなければ10年後には親の資産が2,000万円増えることとなり、親の相続が発生した際の遺産総額自体が増えることとなります。
生前贈与することで賃貸収入を子のものにすることができ、親の相続が発生した際の課税遺産総額を下げることに繋がり、また、子の相続税納税資金となります。
メリット③所得を分散させることができる
アパートを生前贈与すれば、所有者である贈与者(贈与する人)の所得を、受贈者(贈与された人)の所得として分散させることができます。
賃貸アパートの所有者の所得総額が高い場合、所得税も高額になってしまいます。
贈与者と受贈者の所得金額にもよりますが、アパートを生前贈与することで所得を分散することができ、超過累進税率緩和による所得税を下げることに繋がるかもしれません。
メリット④特定の人にアパートを贈与できる
アパートを生前贈与すれば、特定の人に引き継がせることができます。
特定の人とは、相続人の誰か1人でも良いですし、相続人以外の人(内縁の妻や夫や孫など)でも構いません。
賃貸アパートを相続する場合は、遺言書がない限りは「誰が何をどれだけ取得するのか」を決める遺産分割協議をすることとなり、相続人同士でトラブルに発展することもあります。
生前贈与を選択すれば、自分が引き継がせたい人に賃貸アパートを贈与できます。
2-2.アパートを生前贈与する5つのデメリット
アパートを生前贈与によって引き継ぐ場合、デメリットが5つあります。
デメリット①相続時に土地の相続税評価額が高くなる場合がある
アパートの建物部分のみを生前贈与した場合、贈与者(贈与した人)の相続が発生した際に、土地の相続税評価額が高くなる場合があります。
例えば、アパートの建物部分のみを親が子供に生前贈与した場合、賃貸収入は子供の所得になるものの、土地部分は親が所有者のままです。
この場合、子は親から土地を借りることとなるため「貸家建付地」となりますが、親と子が生計が別であれば、小規模宅地等の特例対象となる「貸付事業用宅地等」とはならず、小規模宅地等の特例が適用できなくなることから、相続税負担額が上がる可能性があります。
デメリット②負担付贈与に注意
賃貸アパートを生前贈与する際に、所有者が借りたローンも負担させる場合は「負担付贈与」となります。
負担付贈与とは、贈与の代わりに債務の弁済をするなど、贈与する代わりに受遺者にも一定の負担が付く贈与のことです。
負担付贈与をした場合、受贈者には「贈与財産の価額(時価)-債務」で算出された価額に対して贈与税が課税されます。
つまり、評価額の大元となる価額が「固定資産税評価額」ではなく「時価」となるため、自動的に贈与税の課税対象額も増えてしまうのです。
負担付贈与について、詳しくは「負担付贈与とは?もらってもあげても税金を払うって本当?!」をご覧ください。
デメリット③敷金があると負担付贈与になる
賃貸アパートを生前贈与する場合、そのアパートの入居者から敷金を預かっていれば、負担付贈与とみなされます。
この理由は、入居者が退去する際に、敷金を返還する義務があるためです。
入居者から敷金を預かっている賃貸アパートを生前贈与する場合は、敷金と同額の現金も贈与することで「負担付贈与」に当たらないとされていることから、このような対策が必要となります。
デメリット④不動産取得税などの税負担が多い
アパートを生前贈与する場合は、不動産取得税が課税されます。
アパートを相続によって取得した場合は、不動産取得税は課税されないため、税負担が多くなってしまいます。
またアパートを生前贈与した際は所有権移転登記が必要となりますが、この際に際に登録免許税も課税されます。
相続であれば固定資産税評価額の0.4%ですが、生前贈与の場合は2.0%となりますので、税率も上がってしまいます。
デメリット⑤相続時に兄弟間でトラブルになるかも
賃貸アパートの建物や土地を特定の相続人に贈与した場合、贈与者(贈与した人)の相続発生時に、受贈者以外の相続人から「特別受益」を請求される可能性があります。
特別受益とは、被相続人から生前贈与などによって“特別に受けた利益”のことで、相続人間での遺産分割の公平性を高めるための制度です。
生前贈与による特別受益が認められた場合、贈与財産を相続財産に足し戻して遺産分割をしなくてはなりません(相続税は課税されません)。
特別受益を主張された場合、兄弟間による相続トラブルに発展しやすく、遺産分割協議がまとまらなくなり、裁判になるというケースも珍しくはありません。
特別受益について、詳しくは「特別受益とは~特別受益の持ち戻しや具体的な計算例を解説」をご覧ください。
3.アパートを相続で引き継ぐ!メリットとデメリット
アパートを相続するメリットとデメリットについてまとめました。
3-1.アパートを相続する3つのメリット
アパートを相続で引き継ぐ、3つのメリットから確認していきましょう。
メリット①相続税評価額を低く抑えられる
賃貸アパートの土地と建物を相続によって引き継がせれば、建物は「貸家」として評価し、土地は「貸家建付地」として評価をするため、相続税評価額を低く抑えられます。
具体的な評価方法は後述しますが、土地や建物の評価額から「借地権割合」「借家権割合」「賃貸割合」を差し引くことができます。
結果として、賃貸アパートの相続税評価額は、自用地(自宅など)よりも評価額が低くなります。
メリット②小規模宅地等の特例を使える
賃貸アパートを相続によって引き継がせれば、土地部分に小規模宅地等の特例の「貸付事業用宅地等」を使える可能性があります。
特例の要件を満たせば、最大200㎡まで相続税評価額を50%減額できます。
【出典:国税庁「小規模宅地等の特例」】
例えば、200㎡の土地の上に貸アパート1棟があり、土地部分の相続税評価額が1億円としましょう。
貸付事業用宅地等に該当すれば、土地部分の評価額が5,000万円まで減額されるということです(詳細は後述します)。
メリット③不動産所得税などの税負担が軽い
賃貸アパートを相続によって引き継がせた場合、不動産取得税は課税されません。
この理由は、不動産取得税が課税されるのは、不動産を購入した場合や、贈与をした場合に限定されるためです。
また相続登記(所有権移転登記)の際に課税される登録免許税についても、生前贈与よりも税率が低くなります。
3-2.アパートを相続する2つのデメリット
アパートを相続によって引き継がせる場合は、2つのデメリットがあります。
デメリット①特定の人に相続させるためには遺言書の作成が必要
特定の人に賃貸アパートを相続させるためには、法的に有効な遺言書の作成が必要となります。
この理由は、遺言書がない相続においては、財産を取得する権利があるのは法定相続人のみであり、相続人全員で遺産分割協議を行う必要があるためです。
つまり、遺言書を準備しておかないと、誰がアパートを引き継ぐのかを決めることはできないのです。
なお、遺言書を作成する際は、遺留分に配慮した分割方法を考える必要があるため、賃貸アパート以外の財産がどの程度あるのかを検討する必要があります。
また自筆証書遺言は不備があれば無効となるケースもあるため、司法書士などへ依頼をして、公正証書遺言を作成しておくなどの対策が必要です。
デメリット②あからさまな相続税対策とみなさせる可能性あり
アパートを相続によって引き継がせる場合は、アパートの取得時期・借入金額・売却時期などを総合的に検討する必要があります。
この理由は、近い将来相続が見込まれる者が、相続税の負担軽減を目的に多額の融資によりアパートを建築・購入したなど、あからさまな相続税対策として賃貸アパートを活用したと認定された場合、財産評価基本通達総則6項を適用した課税処分が適用され、追徴課税されるリスクがあるためです。
「財産評価基本通達6項(総則6項)の適用事例【最高裁判決】」でもご紹介していますが、相続税の負担を減らす目的で相続直前に不動産を購入したと認定され、不動産鑑定評価額を課税価格の基礎とし、2億円以上もの追徴課税をされた最高裁判決があります。
このような総則6項の適用リスクを回避するためにも、徹底的なシミュレーションをして対策をしておくことが大切です。
4.アパートの相続や生前贈与で発生する税金や費用
賃貸アパートを相続した場合と生前贈与した場合では、課税される税金の種類や税率に差があります。
税負担の軽減を重視されるならば、相続によって賃貸アパートを引き継いだ方が良いと言えます。
4-1.相続税
アパートを相続で引き継いだ場合は、「相続税」が課税されます。
ただし、相続税が課税される対象となるのは、「正味の遺産総額(アパートを含めた)」から「基礎控除額」を差し引いた後の価額です。
基礎控除額は「3,000万円+(600万円✕法定相続人の人数)」で計算するため、各ご家庭の家族構成によって、相続税が課税されるか否かを判断しなくてはなりません。
なお、相続税は「法定相続分に応じた取得金額」が多ければ、税率も高くなる累進課税が採用されており、課税遺産総額が高ければ納税額も高くなります。
【参考:国税庁「相続税の税率」】
相続税の計算方法について、詳しくは「相続税の計算方法を解説!【申告が必要か誰でも簡単に分かるソフト付き】」をご覧ください。
4-2.贈与税
アパートを生前贈与で引き継いだ場合は、「贈与税」が課税されます。
贈与税が課税される対象となるのは、贈与財産の価額から基礎控除額(110万円)を差し引いた後の価額です。
なお、贈与税の税率は「一般税率」と「特例税率」があり、贈与者と受贈者の関係性によってどちらを適用するのかが決まります。
【参考:国税庁「贈与税の計算と税率(暦年課税)】
なお「相続時精算課税制度」を適用すれば、最大2,500万円までは贈与税が非課税になります。
しかし相続時精算課税制度は、贈与者の相続が発生した際に「非課税となった生前贈与財産」を「相続財産」として持ち戻す必要があるため、結局は相続税の課税対象となる点には注意が必要です。
相続時精算課税制度について、詳しくは「相続時精算課税制度とは何か?メリットやデメリットも全て解説!」をご覧ください。
4-3.不動産取得税
不動産取得税とは、売買・贈与などにより、土地や家屋といった不動産の所有権を取得するときに、一度だけ課税される税金です。
不動産取得税は生前贈与や売買などが事由である場合に課税され、相続が事由であるケースでは課税されません。
不動産取得税は「固定資産税評価額×4%」ですが、特例により、令和6年3月31日までに取得した特定の宅地については、課税標準価格や税率が軽減されています。
不動産取得税について、詳しくは「相続した不動産に不動産取得税はかかる?他に納税義務がある税金は?」をご覧ください。
4-4.所有権移転登記の際の必要経費
賃貸アパートを相続や生前贈与で引き継いだ場合は、所有権移転登記(名義変更)が必要です(相続事由であれば「相続登記」)。
所有権移転登記は法務局で手続きをすることとなりますが、必要経費として登録免許税・司法書士への報酬・必要書類の発行手数料などが発生します。
なお、登録免許税は「土地の固定資産税評価額×税率」となりますが、相続であれば0.4%、生前贈与であれば2.0%と税率が変動しますのでご注意ください。
所有権移転登記に係る費用について、詳しくは「相続登記にかかる費用はいくら?相場を知っておこう!」や「相続登記にかかる登録免許税とは?免税措置/計算方法/納付まで徹底解説」をご覧ください。
4-5.アパートを取得してから発生する税金
相続であれ生前贈与であれ、アパートを取得した後に発生する税金もあります。
4-5-1.固定資産税・都市計画税
賃貸アパートのみならず、不動産の所有者には固定資産税・都市計画税の納税義務が発生します。
固定資産税の計算方法「固定資産税評価額×1.4%」、都市計画税の計算方法は「固定資産税評価額×0.3%」となります。
納税義務者の判定や具体的な計算方法について、詳しくは「相続で固定資産税を払う人は誰?<図解付き>納税額の確認方法や負担軽減方法も」をご覧ください。
4-5-2.所得税・住民税
賃貸アパートを取得した人は、賃貸収入と自己の所得を合算した所得総額に対して、所得税や住民税が課税されます。
所得税と住民税を合算すると、税率は最大55%となりますので、所得税の負担が多い場合などは法人化するなどの対策が必要となります。
また住民税は所得を得た翌年から引き上げられるため、相続前や贈与前には経営状態なども把握しておくことが大切です。
5.賃貸アパートの評価額の計算方法
ここまでで解説してきたとおり、賃貸アパートやマンションは、自用地(自宅や空地など)に比べると評価額が下がります。
この理由は、引き継ぐ方法が相続であれ生前贈与であれ、アパートを他人に賃貸しているということは、「建物」及び「その土地(宅地)」について、所有者に利用の制約があるためです。
この章で賃貸アパートの「土地」と「建物」の評価額の計算方法について、確認しておきましょう。
5-1.賃貸アパートの「土地(宅地)」の評価額の計算方法
賃貸アパートなどの用に供する土地(宅地)については、「貸家建付地(賃貸用の建物が建っている土地)」の評価によって、評価額を減額できます。
以下は貸家建付地の評価方法ですが、路線価方式や倍率方式から算出した「更地の評価額」に、借地権割合・借家権割合・賃貸割合を乗じて計算をします。
貸家建付地の評価額の計算方法について、詳しくは「貸家建付地の相続税評価とは?計算方法と併用できる特例を解説」でも解説しております。
5-1-1.更地の評価額(自用地の評価額)
更地の評価額(自用地の評価額)とは、「路線価方式」や「倍率方式」によって計算した、土地の相続税評価額のことです。
【路線価方式】
路線価方式とは、土地が面する路線価を元に、土地や敷地権の評価額を計算する方式ことです。
路線価は、国税庁「 財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」で調べることができ、路線価図にはその道路に面する1㎡あたりの宅地の評価額が記載されています。
なお、路線価方式による土地の評価額の計算方法は、「路線価×面積(㎡)」です。
例えば、路線価「←400D→」の道路に100㎡の土地が面している場合、その土地の評価額の計算方法は以下の通りとなります。
路線価40.0千円×100㎡=4,000万円
※土地の形状などによる減額補正は考慮していません
路線価方式について、詳しくは「相続税路線価とは?土地評価額・相続税の計算方法や路線価の調べ方を紹介」をご覧ください。
【倍率方式】
倍率方式とは、路線価が設定されていない地域にある、土地や敷地権の評価額を計算する方式のことです。
国税庁「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」に、「倍率地域」と記載があれば、以下の倍率表の「宅地」を元に土地の評価額を計算します。
なお、倍率方式による土地の評価額の計算方法は、「固定資産税評価額×倍率」です。
例えば、固定資産税評価額が3,000万円、倍率1.1倍の土地である場合、その土地の評価額の計算方法は以下の通りとなります。
固定資産税評価額3,000万円×倍率1.1倍=3,300万円
倍率方式について、詳しくは「倍率地域の宅地を4ステップで評価|評価額を減額する方法」をご覧ください。
5-1-2.借地権割合
借地権割合とは、土地の権利全体のうち「借地」として利用できる割合のことです。
借地権割合は、国税庁「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」で調べることができますす。
なお、借地権割合は地域によってA~Gの7段階(30%~90%)に分かれており、地価が高い場所ほど借地権割合が高くなります。
例えば、路線価が「←540C→」である場合、借地権割合は70%となります。
借地権割合について、詳しくは「相続税の借地権割合の算出の方法」をご覧ください。
5-1-3.借家権割合
借家権割合とは、賃貸アパートやマンションの入居者が、その建物を借りる権利のことです。
借家権割合は国税庁のホームページなどから検索して調べることとなりますが、借家権割合は全国一律30%となります(令和5年4月現在)。
5-1-4.賃貸割合
賃貸割合とは、実際に賃貸として貸し出している床面積の割合のことです。
例えば、賃貸アパートが20部屋あり、そのうち18室が貸し出されていれば、賃貸割合は0.9(90%)となります。
ただし継続的に賃貸をしていて、課税時期の前後1ヶ月程度のみ空室になっている場合は、賃貸しているものとみなして計算できることもあります。
賃貸割合について、詳しくは「貸家建付地評価の「賃貸割合」の具体的計算方法」をご覧ください。
5-2.賃貸アパートの「建物」の評価額の計算方法
賃貸アパートなどの建物(家屋)は、「貸家」として扱われます。
そのため、建物の固定資産税評価額から、借家権割合や賃貸割合を減額できます。
建物は固定資産税評価額で評価しますが、経年劣化によって年々価値が下がっているため、時価の50~60%程度です。
それに加えて借家権割合(30%)や賃貸割合で評価減することになるため、自宅や空き家(自用地)よりも評価額が低くなります。
6.アパートの相続税計算シミュレーション
アパートが相続財産に含まれる場合の相続税を、シミュレーションモデルを元に計算してみましょう。
なお、このシミュレーションにおいては、アパートの他にも様々な財産があり、被相続人は父親、法定相続人は配偶者(母親)・長男・次男の3人とします。
6-1.アパートの評価額計算
相続財産に含まれる賃貸アパートは以下の条件として、評価額を計算していきます。
6-1-1.土地評価額を計算
アパートの路線価は400千円、土地の面積は100㎡なので、自用地としての評価額は4,000万円です(土地の形状による減額補正なし)。
ここから借地権割合・借家権割合・賃貸割合を考慮して、土地(借家建付地)の評価額を計算します。
自用地の評価額4,000万円×(1-借地権割合60%×借家権割合30%×賃貸割合90%)=貸家建付地の評価額3,352万円
このシミュレーション例において、アパートの土地評価額は3,352万円となります。
6-1-2.建物評価額を計算
アパートの固定資産税評価額は5,000万円で、ここから借家権割合・賃貸割合を考慮して、建物(貸家)の評価額を計算します。
固定資産税評価額5,000万円×(1-借家権割合30%×賃貸割合90%)=貸家の評価額3,650万円
このシミュレーション例において、アパートの建物評価額は3,650万円となります。
6-2.相続税の課税対象額を算出
相続税の課税対象額は、相続財産の合計額(プラスの財産からマイナスの財産を差し引いた価額)から、相続税の基礎控除を差し引いた後の価額です。
6-2-1.相続財産の合計を算出
まずは、被相続人が死亡した時に所有していた、相続財産の合計を算出します。
被相続人は賃貸アパートの他にも以下のような財産があり、財産総額は2億122万円と仮定します。
財産内容 | 評価額 |
---|---|
賃貸アパート(建物) | +3,650万円 |
賃貸アパート(土地) | +3,352万円 |
自宅の建物(居住用建物) | +2,000万円 |
自宅の土地(居住用宅地) | +3,000万円 |
預貯金 | +4,000万円 |
有価証券 | +4,000万円 |
家財道具 | +20万円 |
葬儀費用 | -200万円 |
相続開始前の生前贈与財産 | +300万円 |
財産総額 | 2億122万円 |
なお、次章でご紹介しますが、不動産を取得する相続人が一定の要件を満たしていれば、「小規模宅地等の特例」が適用できますが、このシミュレーション例においては簡易化するために割愛しております。
6-2-2.基礎控除額を引く
相続税の基礎控除の計算式は、【3,000万円+(600万円×法定相続人の人数)】です。
今回のシミュレーション例では、法定相続人は配偶者(母親)・長男・次男の3人です。
そのため、相続税の基礎控除は4,800万円となり、この基礎控除を上回る価額1億5,322万円に対して相続税が課税されます。
財産総額2億122万円-基礎控除4,800万円=1億5,322万円
相続税の基礎控除について、詳しくは「相続税の基礎控除とは?計算方法・申告要否判断の注意点・相続税軽減の特例を紹介」をご覧ください。
6-3.相続税額を計算
相続税の課税対象は1億5,322万円で、ここから相続税額の計算をしていきます。
6-3-1.家族全体の相続税総額を計算
相続税の課税対象である1億5,322万円を、一旦法定相続分で分割し、相続税の税率と控除額を適用させて仮の相続税額を計算し、家族全体の相続税総額を計算します。
法定相続分 | 法定相続分 分割後 |
税率 | 控除額 | 仮の相続税額 | |
---|---|---|---|---|---|
配偶者 | 1/2 | 7,661万円 | 30% | 700万円 | 1,598万3千円 |
長男 | 1/4 | 3,830万5千円 | 20% | 200万円 | 566万1千円 |
次男 | 1/4 | 3,830万5千円 | 20% | 200万円 | 566万1千円 |
家族全体の相続税 | 2,730万5千円 |
6-3-2.実際の分割割合で相続人に分割
家族全体の相続税2,730万5千円を、実際の分割割合で按分し、各法定相続人によって税額控除を適用して、実際の納税額を計算します。
今回は、実際の分割割合は、法定相続分と仮定します。
実際の分割割合 | 相続税額 | 税額控除 | 実際の納税額 | |
---|---|---|---|---|
配偶者 | 1/2 | 1,598万3千円 | 配偶者の税額軽減 | 0円 |
長男 | 1/4 | 566万1千円 | なし | 566万1千円 |
次男 | 1/4 | 566万1千円 | なし | 566万1千円 |
相続税の計算方法について、詳しくは「相続税計算シミュレーション」をご覧ください。
7.賃貸アパートは相続発生時に「小規模宅地等の特例」を使える
特別な事情がない限りは、賃貸アパートは相続によって取得させた方がお得になるケースが多いです。
この理由は、賃貸アパートの土地(宅地)部分は、自用地よりも評価額が下がるだけではなく、小規模宅地等の特例の「貸付事業用宅地等」が適用できれば、さらに土地の相続税評価額を最大50%減額できる可能性があるためです。
なお、アパートの建物のみを生前贈与した場合、貸付事業を行っているのは建物の所有者である受贈者(贈与された人)です。
そのため、土地の所有者が営んでいた貸付事業に供された宅地とはみなされず、本特例が適用されないため注意が必要です。
7-1.賃貸アパートは宅地部分の評価額を50%減額できる
小規模宅地等の特例における貸付事業用宅地等とは、賃貸アパート等の「不動産貸付事業のために使用している宅地」については、最大200㎡まで相続税評価額を50%減額できるという特例です。
例えば、200㎡の土地の相続税評価額が5,000万円である賃貸アパートの敷地を相続したら、2,500万円もの課税財産が圧縮でき、それに見合う相続税の支払いを抑えることができます。
また、貸付している宅地は、アパート・マンションの他に、駐車場や自転車駐輪場も貸付事業用宅地等に当てはまります。
7-2.賃貸アパートで小規模宅地等の特例を使うための要件
賃貸アパートに小規模宅地等の特例(貸付事業用宅地等)を適用させるためには、以下の要件を満たす必要があります。
① 相続税の申告期限まで貸付事業を継続すること
② その宅地を相続税の申告期限まで保有し続けること
③ 相続開始前3年以内に貸付事業の用に供されたものでないこと
③は平成30年の税制改正によって設けられた要件で、平成30年4月1日以降の相続においては、相続開始前3年以内に貸付事業の用に供した宅地に関しては、小規模宅地等の特例を適用できません。
なお「事業的規模」で貸付事業を行っていた場合などであれば、3年以内に貸付事業の用に供されたものでも、例外的に本特例の適用が可能です。
詳しくは「小規模宅地等の特例(貸付事業用宅地等)の“3年縛り規制”の例外的な取扱い」で解説しているので、あわせてご覧ください。
7-3.小規模宅地等の特例でよくある疑問
小規模宅地等の特例の貸付事業用宅地等を適用する場合の、よくある疑問をまとめたので参考にしてください。
Q1:相続した賃貸アパートに空室があった場合はどうなる?
空室部分は貸付事業用宅地等から除外されるため、原則として、小規模宅地等の特例(貸付事業用宅地等)は適用できません。
しかし、空室が数ヶ月程度で新たな賃借人に賃貸しているといった場合には、その空室は「一時的」であるため「貸付事業を継続している」と認められ、特例の適用対象となります。
詳しくは「小規模宅地等の特例の適用~アパートに空室がある場合の貸付事業用宅地について~」で解説しておりますのでご覧ください。
Q2:賃貸アパートに貸付部分と自身が住んでいる部分がある場合はどうなる?
通常1棟全てが賃貸アパートのような場合には、宅地の全てが貸付事業用宅地等となります。
しかし、賃貸アパートの建物に「貸付部分」と「居住部分」がある場合は、小規模宅地等の特例の「貸付事業用宅地等(200㎡まで50%減額)」と「特定居住用宅地等(330㎡まで80%減額)」を併用することとなります。
例えば、180㎡の宅地の上に建つ建物があり、1階を貸付(床面積50㎡)、2階を貸付(床面積50㎡)、3階に被相続人と相続人が住んでいた(床面積50㎡)としましょう。
この例においては、1階と2階は貸付事業用宅地等に該当し、3階は被相続人と相続人が同居しているため「特定居住用宅地等」に該当します(各要件を満たす必要あり)。
貸付事業用宅地等と特定居住用宅地等を併用する場合、建物の床面積に応じて適用面積を算定しますが、その計算方法は複雑です。
詳しくは「小規模宅地等の特例を併用する場合の計算方法とパターン」で解説しておりますので、あわせてご覧ください。
8.賃貸アパートの相続手続きの流れ
アパートを相続によって引き継ぐ場合、具体的にどのような相続手続きが必要になるのかを知っておきましょう。
8-1.相続財産の把握
まずは賃貸アパートを含む、相続財産の総額を把握する必要があります。
相続財産とは、不動産や現金や有価証券といったプラスの財産だけではありません。
未払金や借金といったマイナスの財産や、生命保険金などのみなし相続財産、相続時精算課税制度を適用した贈与財産、相続開始前3年~7年以内の贈与財産(年間110万円以下)も含まれます。
相続手続きをスムーズに進めるためにも、相続財産を漏れなく把握しておきましょう。
相続財産の基礎について、詳しくは「相続財産とは何か?~民法と税法では範囲が異なる~」をご覧ください。
8-2.遺産分割協議
相続財産の把握ができたら、相続人全員で遺産分割協議を行います(法的に有効な遺言書があれば不要)。
遺産分割協議では、財産目録を元に「誰が・何を・どのくらい取得するのか」を決めますが、意見が対立する場合は数か月かかるケースもあります。
話合いがまとまり次第で遺産分割協議書を作成し、これを元に相続税申告や財産の名義変更・解約などの手続きを行うこととなります。
遺産分割協議について、詳しくは「遺産分割協議は相続税申告期限までに!手続き期限リストで漏れを防ぐ」をご覧ください。
8-3.所得税の準確定申告
賃貸アパートが相続財産に含まれる場合は、相続開始から4ヶ月以内に準確定申告をする必要があります。
準確定申告とは、被相続人の代わりに相続人等が代わりに確定申告を行うことです。
遺産分割協議が成立した後に、実際に賃貸アパートを相続した人が「相続開始時点に遡って単独で所有したもの」として確定申告することはできません。
そのため、遺産分割協議成立時までは、各共同相続人が法定相続分に従って賃料収入を得たものとして、共同で準確定申告をする必要があるのです。
準確定申告について、詳しくは「準確定申告とは?申請期限・書類の書き方・不要なケースを税理士が解説」をご覧ください。
8-4.相続税の申告と納税
遺産分割協議がまとまれば、相続税の申告期限(相続発生の翌日から10ヶ月以内)までに、相続税の申告と納税を行います。
ただし、相続税の申告・納税が必要なのは、「正味の遺産総額>基礎控除額」というケースのみです。
「正味の遺産総額<基礎控除額」であれば、相続税の申告も納税も不要となります。
ただし、賃貸アパートに小規模宅地等の特例を適用させた結果、相続税が課税されない場合であっても、相続税申告は必要となりますのでご注意ください。
相続税の申告について、詳しくは「相続税申告は自分でできる?不要なケース・流れ・必要書類・期限を解説」をご覧ください。
8-5.相続登記(名義変更)の申請
賃貸アパートを相続する人が決まれば、相続登記(所有権移転登記)を行いましょう。
なお、令和6年4月1日から相続登記が義務化されるため、不動産の取得を知ってから3年以内に申請をしなくてはなりません(正当な理由なく怠れば10万円以下の過料)。
相続登記の義務化は、すでに相続が発生しているケースにも適用されるため、失念しないようご留意ください。
相続登記について、詳しくは「不動産の相続に必要な「相続登記」についての基本知識を徹底解説」や「相続登記(不動産の名義変更)の期限とは?登記しないと6つのデメリットがある!?」をご覧ください。
9.アパートの相続税が払えない場合の対処法
相続税の申告・納税は「相続開始の翌日から10ヶ月以内」に行う義務があり、納税については「現金一括」で納付するのが原則です(クレジットカード払いも可能)。
しかし、被相続人の遺産のほとんどが、アパートや自宅といった現物資産を占める場合、相続税が払えないこともあります。
このように相続税が払えない場合の対処法として、「延納」や「物納」が認められています。
詳しくは「相続税を払えない場合は延納?物納?メリット・デメリット・対処法を解説」でも解説しておりますので、あわせてご覧ください。
9-1.延納
相続税の延納とは、相続税を金銭一括で納付できない場合に、一定の要件を満たすことで、年賦(分割)で納付することが認められる制度のことです。
延納が認められれば、5~20年間の年賦が可能となります。
しかし延納を選択した場合は別途「利子税」が課税され、申請手続きも複雑となりますのでご注意ください。
相続税の延納について、詳しくは「相続税の延納とは?4つの要件や手続き方法をわかりやすく解説」をご覧ください。
9-2.物納
相続税の物納とは、延納でも相続税を納付できない場合に、相続した不動産や株式等をそのまま納めることが認められる制度のことです。
ただし、どのような財産でも物納できる訳ではなく、物納できる財産の種類や優先順位が定められています。
物納について、詳しくは「相続税の支払い方には、物納がある!? 物納を理解するための7つのポイント」をご覧ください。
10.老朽化した古いアパートを相続した場合はどうなる?
老朽化した古い賃貸アパートを相続した場合、「空室の多さ」や「修繕費の負担」といった、様々な問題があります。
10-1.空室の多さ問題
相続したのが老朽化した古い賃貸アパートである場合、空室が多くなってしまうケースがあります。
空室であると、当然ながら賃貸収入は入ってきません。
そのため、ローン返済や修繕費などの支出の方が大きくなってしまい、経営を圧迫してしまうことが考えられます。
10-2.修繕費の負担の問題
相続したのが老朽化した古い賃貸アパートである場合、修繕費の負担も問題となります。
修繕をせずに放置すると、性能面でのトラブルに直結し、空室が増えてしまいます。
最悪の場合は、外壁が落下して通行人がケガをしたといったトラブルに発展し、所有者が損害賠償責任を負うこともあります。
10-3.老朽化した古いアパートの相続…対策は?
老朽化した古い賃貸アパートを相続した場合、以下の3つの対策が可能です。
①そのまま賃貸経営を継続する
②修繕する・新しく建替える
③売却する
どの対策を選択すべきなのかは、修繕後のアパートの寿命・修繕にかかる費用・回収できる年数を総合的に判断する必要があります。
必ず専門家に相談したうえで、今後の経営方針を決められると良いでしょう。
11.アパート相続はトラブルになりがち!専門家に相談を
賃貸アパートを引き継ぐ方法は相続と生前贈与がありますが、相続税や贈与税といった納税負担を減らす目的であれば、相続がおすすめです。
少しでも相続税評価額を下げるためには、生前から魅力ある物件を建築し、メンテナンスを行うことによって空室割合をできるだけ減らして賃貸中にしておくことが、相続発生時に節税できる条件となります。
相続発生時には、実際に貸している部分の賃貸借契約書に提示を求められることもありますので、相続発生前の段階から、契約書の整理等も併せて行っておくとよいでしょう。
また相続によって賃貸アパートを特定の人に引き継ぎたい場合は、遺留分に配慮した上で法的に有効な遺言書を作成しておくことも大切です。
このように、賃貸アパートの相続や生前贈与においては、予め対処をしておかないとトラブルに発展しがちです。
賃貸アパートの所有者のみなさんは、相続や贈与に強い専門家に相談をした上で対策をされることをおすすめします。
11-1.税理士法人チェスターにご相談を
賃貸アパートの相続や生前贈与に関する税務に関しては、税理士法人チェスターへご相談ください。
税理士法人チェスターは、年間2,200件超の相続税申告実績を誇る税理士事務所です。
相続問題に特化した税理士が、様々な視線から、賃貸アパートの最適な引き継ぎ方や対策についてご相談させていただきます。まずはお気軽にお問合せください。
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