相続税申告が不要なケースとは?基礎控除額の計算方法・非課税の特例・注意点
亡くなった人(被相続人)の現金や不動産などを相続しても、必ず相続税がかかるわけではありません。相続した遺産の総額が相続税の基礎控除額を下回っていると、申告および納税は不要であるためです。
また、相続税の税負担を軽減する制度を適用すると申告が不要になる場合もあります。ただし、制度によっては適用したことで税額が0円となる場合でも、相続税の申告が必要です。申告が不要と思い込み手続きを怠ると、加算税や延滞税などの罰則が課せられたり、税務調査が入ったりするかもしれません。
そこで今回は、相続税の申告が不要となるケースについて相続税専門の税理士がわかりやすく解説します。YouTube動画でも解説していますので、あわせてご覧ください。
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1.相続税申告が不要なのは「課税価格が基礎控除額内」の場合
相続税の申告・納税が必要となるのは、それぞれの相続人が取得した遺産の課税価格を合計した金額が基礎控除額を上回る場合です。
国税庁の調査によると、相続税の申告書の提出に係る被相続人の割合は、全体の9.6%でした。
※出典:国税庁「令和4年分 相続税の申告事績の概要」
ただし、相続税申告が不要であっても、遺産相続の手続きをするために、相続人全員で遺産分割協議を行って分割方法や割合を決め、遺産分割協議書を作成する必要はあります(遺言書があれば不要)。
1-1.相続税の基礎控除額の計算方法
相続税の基礎控除額は、相続税法15条で定められた控除額のことです。「相続税が課税されるかどうかを判断するためのボーダーライン」であると考えるとわかりやすいでしょう。
基礎控除額の計算方法は、以下のとおりです。
法定相続人の数に応じて、相続税の基礎控除額は変わります。法定相続人の数が多いほど基礎控除額は高くなっていくため、相続税はかかりにくくなります。
平成26年(2014年)まで相続税の基礎控除額は「5,000万円+(1,000万円×法定相続人の人数)」でした。それが、税制改正により平成27年(2015年)からは「3,000万円+(600万円×法定相続人の人数)」に減額されました。
相続税の基礎控除の概要について、詳しくは以下の記事をご覧ください。
(参考)「相続税の基礎控除とは?控除額の計算方法や法定相続人の数え方の注意点」
1-2.相続税の課税価格の計算方法
相続税の課税価格の計算式は、以下のとおりです。
- 課税価格:課税対象となる財産の総額-債務・葬式費用−非課税財産+相続開始前一定期間内の贈与財産
課税対象となる財産の総額は、現金や不動産、有価証券などに加え、生命保険の死亡保険金などの「みなし相続財産」も含まれます。また、相続開始前一定期間内の贈与財産や、相続時精算課税制度という制度を利用して贈与された財産の金額も足し合わせる必要があります。
債務・葬式費用は、被相続人が残した借入金などの債務、相続人が負担した葬式費用などです。非課税財産には、墓所・仏壇・祭具、生命保険金の非課税枠などがあります。
以上の点を踏まえて、相続税の課税価格の計算方法をあらわしたものが、以下のとおりです。
(上記の「相続開始前3年以内の贈与財産」の「3年以内」は、令和9年(2027年)1月1日以降の相続から、段階的に「7年以内」まで延長されます。)
各相続人の課税価格の合計から、相続税の基礎控除額を差し引いて計算する「課税遺産総額」に相続税は課税されます。課税遺産総額の計算結果がマイナスであれば、相続税を申告・納税する必要はありません。
相続税の課税価格の計算方法について、詳しくは以下の記事もご一読ください。
(参考)相続財産とは何か?~民法と税法では範囲が異なる~
【注意①】みなし相続財産の非課税枠を差し引く
みなし相続財産とは、相続や遺贈(遺言によって特定の人に財産を贈ること)で取得した財産ではないものの、相続税の課税対象となる財産のことです。みなし相続財産の例としては「生命保険の死亡保険金」や「死亡退職金」などがあげられます。
みなし相続財産には、取得した金額のうち相続税の課税対象外となる非課税枠が設けられています。生命保険の死亡保険金と死亡退職金の非課税枠は、それぞれ「500万円×法定相続人の数」です。
たとえば、法定相続人が3人である場合、死亡保険金のうち「500万円×3人=1,500万円」まで相続税がかかりません。
相続税の課税価格を計算する際は、遺産の総額にみなし相続財産から非課税額を差し引いた残りを加える必要があります。
みなし相続財産の概要については、以下の記事で詳しく解説していますので合わせてご覧ください。
(参考)みなし相続財産とは?死亡保険金と死亡退職金に相続税がかかるって本当?
【注意②】相続時精算課税制度を利用した贈与財産は加算
相続時精算課税制度とは、原則「60歳以上の両親や祖父母」から、「18歳以上(※)の子供や孫」に対して生前贈与した際に選択できる贈与税の制度のことです。(※:贈与が令和4年(2022年)3月31日以前の場合は20歳以上です。)
相続時精算課税制度を利用する場合、最大2,500万円までの財産に贈与税はかかりません。ただし、贈与された財産は相続税の課税価格に含まれます。
相続時精算課税制度の詳細は「相続時精算課税制度とは?活用するメリット・デメリットや注意点も解説!」をご覧ください。
【注意③】相続開始前一定期間内の贈与財産は加算
暦年贈与(年間110万円以下)を利用してから一定期間内に贈与者が亡くなった場合、その暦年贈与は無かったものと判断され、相続財産とみなされます。
ただし、相続財産とみなされるのは、相続人に対して行われた贈与のみとなります。
「養子や代襲相続人ではない孫」や「子の配偶者」などへの暦年贈与については、相続財産としてみなされないため、相続税の課税価格に加算する必要はありません。
なお、生前の贈与財産が相続財産に加算される対象の期間は「3年以内」ですが、令和9年(2027年)1月1日以降の相続から段階的に「7年以内」まで延長されます。
相続開始前の一定期間内の贈与財産について、詳しくは「相続開始前3年~7年以内の贈与は相続税の対象になる!? 相続時加算される贈与とは?」をご覧ください。
2.基礎控除額を超えても相続税申告書の提出が不要となる人もいる
相続税の課税価格が基礎控除額を超えていても、控除制度を適用することで相続税額が0円となる場合があります。以下の控除制度は、相続税の申告をすることなく適用できます。
- 障害者控除
- 未成年者控除
- 相次相続控除
それぞれの制度内容をみていきましょう。
2-1.障害者控除を適用して税額が0円となる場合
障害者控除(障害者の税額控除)とは、 85歳未満の障害者が財産を相続した場合に、所定の要件を満たすと相続税額から一定金額を控除できる制度です。障害者控除を適用すると相続税額が0円になるのであれば、相続税を申告する必要はありません。
控除額は、以下のとおり一般障害者と特別障害者で異なります。
一般障害者:(85歳-相続発生時の年齢)×10万円
特別障害者:(85歳-相続発生時の年齢)×20万円
相続発生時の年齢は、1年未満を切り捨てカウントします。例えば、相続発生時の年齢が67歳6ヶ月である一般障害者の場合、控除額は「(85歳−67歳)×10万円=180万円」です。
障害者控除の対象となるのは、知的障害者と判断された方、精神障害者保健福祉手帳や身体障害者手帳の交付を受けている方、精神または身体に障害がある65歳以上の方などです。また、一般障害者よりも障害の程度が重い場合は特別障害者となります。
障害者控除の控除額が、障害者である相続人の税額を上回っている場合、余った金額については扶養義務者である人の相続税額から控除することが可能です。
障害者控除の概要について、詳しくは以下の記事をご覧ください。
(参考)「相続税の障害者控除とは?利用する要件や控除額計算方法をご紹介」
2-2.未成年者控除を適用して税額が0円となる場合
未成年者控除とは、未成年である相続人の相続税額から一定金額を控除できる制度です。未成年者控除を適用した結果、相続税額が0円となった場合、相続税の申告は不要です。
控除額は、以下のとおり成人を迎えるまでの残りの年数に、10万円をかけて計算します。
(18歳-相続発生時の年齢)×10万円
(相続開始が令和4年(2022年)3月31日以前の場合は、(20歳-相続発生時の年齢)×10万円)
相続発生時の年齢は、1年未満を切り捨てて数えるため、相続発生時の年齢が15歳4ヶ月であれば、控除額は「(18歳−15歳)×10万円=30万円」です。
未成年である相続人の相続税額から差し引ききれなかった控除額については、 障害者控除と同様に扶養義務者の税額から控除することができます。
未成年者控除について詳しくは、以下の記事をご覧ください。
(参考)相続で未成年者がいる場合に必要な特別代理人とは?相続税の未成年者控除についても解説
2-3.相次相続控除を適用して税額が0円となる場合
相次相続控除とは、前回の相続が発生してから10年以内に相次いで相続が発生した場合に、納税者の負担を軽減する制度です。
立て続けに相続が発生し、そのたびに相続税が課税されてしまうと、相続人の税負担が過大になりかねません。
たとえば、父親が亡くなって一次相続が発生したとき、配偶者と長男が遺産を相続したとしましょう。その5年後に配偶者が亡くなり二次相続が発生し、遺産のすべてを長男が相続しました。
この場合、父親の遺産のうち、配偶者が一度相続したあとに、二次相続で長男へとわたったものは、短期間で2回も相続税の課税対象となってしまいます。そこで、長男は相次相続控除を適用することで、一次相続で課税された相続税の一部を二次相続における相続税額から控除でき、税負担を軽減することが可能です。
控除できる金額は、前回の相続から1年経過するごとに10%ずつ減っていきます。
相次相続控除の要件や控除額の計算方法などは、以下の記事で詳しく解説していますのでご覧ください。
(参考)相続が立て続けに2回起きてしまった場合。相続税は控除してもらえる?
3.特例や控除を使って相続税が0円になっても相続税申告書の提出が必要となるケース
前章でご紹介した3つの控除以外にも、控除や特例を使えば相続税額が0円になるケースもあります。
ただし、この章でご紹介する特例や控除は、相続税申告書の提出が適用要件とされています。
つまり特例や控除を適用すれば相続税額が0円になっても、相続税申告書を提出しなければ、特例や控除そのものを適用できないということです。
3-1.配偶者控除(配偶者の税額軽減)を適用する場合
配偶者控除(配偶者の税額軽減)とは、配偶者が取得した遺産のうち、相続税の課税対象となる価額が1億6,000万円まで(もしくは法定相続分まで)であれば、配偶者には相続税が課税されない特例のことです。
配偶者控除を適用して、その配偶者や相続人全体の相続税額が0円(非課税)になったとしても、相続税の申告は必要です。
配偶者控除を適用すれば配偶者に係る相続税額が0円になるケースがほとんどですが、配偶者控除は配偶者や他の相続人への遺産分割を考えて適用しないと、将来その配偶者が亡くなった場合、子供の税負担を増すことにもなるので注意が必要です。
相続税の配偶者控除について、詳しくは「1.6億円が無税に!相続税の配偶者控除の条件・注意点・計算方法を解説」をご覧ください。
3-2.小規模宅地等の特例を適用する場合
小規模宅地等の特例とは、被相続人や同一生計親族の居住用や事業用として使用している宅地等(土地や敷地権)について、一定の要件を満たせば、その宅地等の評価額を50~80%減額できる特例です。
小規模宅地等の特例を適用して、相続税の課税価格が基礎控除額以下になる場合でも、相続税申告は必要です。
なお、小規模宅地等の特例を適用させるタイミングは、課税価格に算入する「土地の評価額」の計算時です。
小規模宅地等の特例は適用要件が複雑であることから、特例の適用を検討される方は、必ず相続税に強い税理士に相談されることをおすすめします。
小規模宅地等の特例の概要について、詳しくは「小規模宅地等の特例とは~概要・要件・よくあるQ&Aなどすべて解説~」をご覧ください。
3-3.農地の納税猶予の特例を適用する場合
農地の納税猶予の特例とは、相続や贈与などで農地を取得した人が所定の要件を満たすと、農地にかかる税金の納税が猶予される特例です。名称には「猶予」とありますが、実際には納税が免除されるケースが少なくありません。
農地の納税猶予の特例があるのは、農地を相続した人に多額の相続税が課せられてしまうと、農地を売却しなければ納税できなくなり、引き続き農業を営めなくなる可能性があるためです。
農地の納税猶予の特例を受けるためには、農地などの納税猶予額や利子税の額に見合う価値がある担保を準備したうえで、相続税を申告しなければなりません。また、申告書には相続税の納税猶予に関する適格者証明書や担保関係書類などを添付する必要があります。
(参考)No.4147 農業相続人が農地等を相続した場合の納税猶予の特例|国税庁
農地の納税猶予の特例について詳しくは、以下の記事をご覧ください。
(参考)農地の納税猶予の特例を税理士が徹底解説
3-4.国などに寄付した財産の非課税の特例(寄付金控除)を適用する場合
相続税の申告期限までに、相続した財産を国や地方公共団体、特定の公益法人などに寄付した場合は、その財産は特例により相続税の課税対象になりません。
この特例を適用するときは、相続税の申告書に特例の対象になる財産の明細を記載し、寄付先による一定の受領書、証明書類などを添付する必要があります。
(参考)No.4141 相続財産を公益法人などに寄附したとき|国税庁
国などに寄付した財産の非課税の特例(寄付金控除)について、詳しくは以下の記事で解説していますのでご覧ください。
(参考)相続税の寄付金控除とは?相続財産を寄付するメリットについて解説
4.相続税の申告期限に注意~申告期限は10ヶ月以内~
相続税申告が必要な方は、相続税の申告期限にご注意ください。
相続税の申告期限は、原則「被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10ヶ月以内」となります。
例えば、ある年の2月1日に被相続人が死亡したことを知ったのであれば、その年の12月1日が相続税の申告期限となります。
なお、相続税の納付期限も同日となりますので、「申告」と「納税」の両方を完了しなければなりません。
相続税の申告期限について、詳しくは「相続税の申告期限を過ぎたらどうなる?ペナルティ・デメリット・対処法を解説」をご覧ください。
5.万が一、相続税申告書を提出しなかったらどうなるか
相続税申告書の提出が必要であるにもかかわらず、相続税申告書の提出をしなかった場合、加算税や延滞税などの罰則が課せられます。
相続税の申告書を提出せず、税務調査が入って無申告を指摘されたり、財産の仮装・隠ぺいが認められたりすると、課せられるペナルティが重くなってしまいます。
5-1.相続税申告をしなかったら加算税や延滞税が課せられる
相続税申告が必要な人が申告書を提出しなかった場合は、「延滞税」のほか「無申告加算税」もしくは「重加算税」が課税されます。
無申告加算税の税率は、「どのタイミングで期限後申告書を提出したのか」によって異なります。また、財産の仮装・隠ぺいが認められると、無申告加算税に代えて重加算税が課税されます。
「相続税申告は不要」と思い込んでいて、申告期限後に気付いて自主的に期限後申告書を提出した場合は、「無申告加算税5%+延滞税」が課税されます。
あえて相続税申告書を提出せず、税務調査が入って仮装・隠ぺい行為があったと認定されれば、「重加算税40%+延滞税」が課税されるということです。
自主的に期限後申告書を提出すれば加算税の税率を低く抑えられますので、「申告義務があるのに申告不要と思い込んでいた!」という方は、すみやかに相続税申告書を提出しましょう。
加算税や延滞税について、詳しくは「相続税の延滞税・加算税っていくら?税率・計算方法・免除特例も解説」をご覧ください。
5-2.税務調査が入る可能性が高い
「相続税の申告が必要だけど発覚することはないだろう」と考える方はいらっしゃいますが、税務調査が入る可能性が高いので絶対にやめてください。
この理由は、税務署は被相続人が亡くなった事実を把握しているだけではなく、KSKシステム(税務署のシステム)に蓄積された膨大なデータを元に、「相続税申告が必要な人」をある程度把握しているためです。
国税庁の「令和4事務年度における相続税の調査等の状況」によれば、無申告の事案について705件の税務調査(実地調査)が実施されています。実地調査1件当たりの追徴税額は1,570万円に及びます。
税務当局は「追徴税が大きい」と見込まれる無申告事案に対して、より重点的に税務調査をしていると考えられます。
税務調査の対象に選定されると、税務署から「事前通知」がありますので、この時点で相続税に強い税理士に相談をし、自主的に期限後申告書を提出することがベストな選択肢となります。
税務調査の概要について、詳しくは「税務調査って何されるの?相続税の税務調査の概要と事前準備」をご覧ください。
5-2-1.申告不要でも税務署から「お尋ね」が来る場合も
相続税申告が不要であっても、相続開始から6~8ヶ月後に、税務署から「相続税についてのお尋ね」という封筒が届くことがあります(税務調査の事前通知ではありません)。
この「お尋ね」は、一定の財産があると見込まれた人に対して、相続税申告書の提出を促す目的で送付されています。
仮に相続税申告書の提出が不要である方は「相続税の申告要否検討表」という用紙に、必要事項を記入して、基礎控除よりも相続財産が少なかった旨を文書で伝える必要があります。
詳しくは「税務署から相続税についてのお尋ねが届いた時の対応方法とポイント」で解説しているので、併せてご覧ください。
6.相続税の時効は5年または7年
相続税申告には時効(除斥期間)が定められており、これを過ぎると税務署は税金を課す権利を失います。そのため、被相続人が亡くなって相続が発生してから、時効が成立するまで税務署から請求が来なければ、相続税の申告と納税をする必要はありません。
相続税の時効は、法定申告期限(亡くなった日から10ヶ月)から5年間です。ただし「相続税の申告義務があることを知りながら申告しなかった」などの悪意がある場合、相続税の時効は7年に延長されます。
また、相続税の申告・納税をせずに時効が成立するまで待つことは、現実的に不可能です。相続税を申告しなかったとしても、時効が成立するまでに必ず税務調査が入り申告漏れを指摘されるためです。
遺産を相続した場合は、遺産総額と法定相続人を早急に調査し、申告と納税が必要な場合は、必ず期日までに手続きを済ませましょう。
相続税の時効について詳しくは、以下の記事で解説していますのでご覧ください。
(参考)相続税の時効は5年か7年!ペナルティ発生前に申告するべき理由を解説
7.相続税申告を不要にするための対策として活用できる特例制度
贈与税がかからない方法で生前に財産を贈与すると、遺産が減り相続税の申告が不要になることがあります。
相続対策として用いられることの多い贈与税の特例制度は、以下のとおりです。
- 教育資金一括贈与の非課税制度
- 住宅取得等資金贈与の非課税の特例
- 結婚・子育て資金一括贈与の非課税制度
それぞれの特徴をみていきましょう。
7-1.教育資金一括贈与の非課税制度
教育資金一括贈与の非課税制度とは、30歳未満の人に教育資金を贈与するとき、所定の要件を満たすと適用できる非課税制度です。この特例を適用できると、受贈者(財産を贈与される人)1人あたり最高で1,500万円までの贈与が非課税となります。祖父母から孫へ教育資金を贈与する際に利用されることの多い制度です。
この特例を適用できるのは、両親や祖父母などの直系尊属が、30歳未満の子供や孫などの直系卑属に資金を贈与するときです。
特例を使って贈与された教育資金は、入学金や授業料、通学、交通費、修学旅行代、給食費などさまざまな費用の支払いに充てることができます。贈与されたお金のうち最大500万円までであれば、進学塾や水泳などの習い事の費用に充てることも可能です。
教育資金一括贈与の非課税制度を利用するためには、金融機関と契約して専用口座を開設する必要があります。受贈者は、金融機関に支払った費用の領収書を金融機関に提出することで、専用口座からお金を引き出せます。
また、教育資金を必要なタイミングで都度贈与する場合、贈与税の課税対象とはなりません。たとえば、孫が大学に進学するときに入学金や初年度の授業料などを負担した場合は、贈与税の課税対象外となります。将来的に必要となる教育資金を事前にまとめて贈与する場合は、教育資金一括贈与の非課税制度を活用すると良いでしょう。
教育資金一括贈与の非課税制度については、以下の記事で詳しく解説していますので、ご覧ください。
(参考)教育資金贈与はいつまで?対象項目や改正における注意点【最新版】
なお、この特例は令和8年(2026年)3月31日までの時限措置です。
7-2.住宅取得等資金贈与の非課税の特例
住宅取得等資金贈与の非課税の特例とは、子供や孫などが住宅を取得する際に、一定金額までを非課税で贈与できる制度です。非課税となる金額は、以下のとおり取得する住宅の種類によって異なります。
- 省エネ等住宅:1,000万円
- 上記以外の住宅:500万円
省エネ等住宅の要件は、以下のとおりです。
(住宅取得等資金の贈与が令和6年1月1日以後の場合は、上記の①の要件については、「断熱等性能等級5以上かつ一次エネルギー消費量等級6以上であること」となります。ただし、建築等の時期による例外があります。)
住宅取得等資金贈与の非課税の特例を適用できると、最大1,000万円の財産を非課税で贈与でき、遺産を大幅に減らせます。ただし、必ずしも相続対策として有効であるとは限りません。というのも、住宅取得等資金贈与の非課税の特例を適用すると「小規模宅地等の特例」を利用できなくなることで、かえって相続税の負担が増えてしまうケースがあるためです。
小規模宅地等の特例を使えるのは、亡くなった人が住んでいた自宅を相続する人が配偶者または同居していた親族であるケースです。亡くなった人と別居していた親族であっても、3年以上借家に住んでいる場合、その他の要件を満たせば小規模宅地等の特例を適用できます。
そのため、資金の贈与を受けて持ち家を取得した子や孫が自宅を相続した場合、相続税を計算するときに 小規模宅地等の特例を適用できず、税負担が増えてしまうことがあります。
住宅取得等資金贈与の非課税の特例を用いて贈与するか検討するときは、相続税専門の税理士に相談すると良いでしょう。
住宅取得等資金贈与の非課税の特例については、以下の記事で詳しく解説していますのでご覧ください。
(参考)住宅資金の贈与が最大1,000万円まで非課税に! 住宅取得等資金贈与の非課税特例のメリット、デメリット、注意点を解説
なお、この特例は令和8年(2026年)12月31日までの時限措置です。
7-3.結婚・子育て資金一括贈与の非課税制度
結婚・子育て資金一括贈与の非課税制度とは、父母や祖父母が18歳(※)以上50歳未満の子や孫のために、結婚や出産または育児に必要な資金を一括贈与した場合に利用できる制度です。(※贈与が令和4年(2022年)3月31日以前の場合は20歳以上です。)
非課税となる金額は、受贈者1人につき1,000万円が限度となります。結婚・子育て資金一括贈与の非課税制度を利用して贈与された資金は、以下の支払いに充てることができます。
- 結婚費用:挙式費用・衣装代・家賃や敷金などの新居費用など
- 妊娠・出産・育児に要する費用:不妊治療・妊婦健診の費用・分娩費・子の医療費など
ただし、結婚費用に充てられるのは300万円が上限です。
結婚・子育て資金一括贈与の非課税制度を利用するためには、金融機関と契約を結んで専用口座を開設する必要があります。贈与された資金は専用口座に入金され、受贈者は結婚費用や子育て費用を支払ったときに領収書などを金融機関に提出することで口座からお金を引き出せます。
結婚・子育て資金一括贈与の非課税制度について詳しくは、以下の記事をご覧ください。
(参考)結婚・子育て資金の一括贈与は1,000万円まで贈与税が非課税に!
なお、この特例は令和7年(2025年)3月31日までの時限措置です。
8.相続税の申告が不要でも相続手続きは必要
相続税の申告が不要な場合でも、遺産分割協議をした上で遺産分割協議書を作成する必要があります。 また、土地や建物等の不動産を相続したときは、相続登記をしなければなりません。
8-1.遺産分割協議をして遺産分割協議書を作成する
亡くなった人が遺言書を残していなかった場合、相続人の全員が集まって遺産分割協議をする必要があります。遺産分割協議とは、 相続人全員で遺産の分け方を協議することです。遺産の引き継ぎ方が決まったあとは、遺産分割協議書を作成しなければなりません。
遺産分割協議には、原則として相続人の全員が参加しなければならず、1人でも欠員がいると協議の結果は無効となります。また、相続人が未成年である場合は、代理人が参加する必要があります。
遺産分割協議をする際は、まず相続人となる人を調査しなければなりません。加えて、被相続人がいくらの財産を持っていたのかも調査をする必要があります。
プラスの遺産よりもマイナスの遺産のほうが多かったときは相続放棄をすることもできますが、相続の開始があったときから3ヶ月以内に手続きをする必要があります。そのため、相続が発生したときは被相続人が残した財産や法定相続人になる人を早急に調べることが大切です。
8-2.不動産を相続した場合は相続登記(名義変更)をする
遺産分割協議や遺言によって遺産の引き継ぎ方が決まったあとは、必要に応じて預貯金や不動産などの名義を変更します。土地や建物を相続した人は、所有権を移転するための登記が必要です。相続による所有権移転登記は「相続登記」ともいわれます。
相続した不動産を売却したり、それを担保にお金を借りたりするためには相続登記をする必要があります。
また、不動産を相続した人が亡くなったとき、相続登記をしておらず所有者が曖昧な場合は、遺産の分割方法で相続人同士が揉めてしまうかもしれません。
令和6年(2024年)4月1日から相続登記が義務づけられ、不動産を相続した相続人は不動産の取得から3年以内に登記の申請をしなければなりません。
そのため、土地や建物といった不動産を相続したときは速やかに相続登記をすることが大切です。
9.相続税申告を自分でするよりも税理士に依頼を
相続税の課税価格が基礎控除額以下である場合や、一部の控除制度を適用したことで相続税額が0円となった場合、基本的に相続税申告書の提出は不要です。
ただし、適用させる控除や特例の種類によっては、相続税額が0円でも相続税申告をする必要があります。
申告期限を1日でも過ぎた時点で加算税や延滞税などの罰則が課せられてしまいます。相続税申告が必要な方は、申告期限までに「申告」と「納税」の2つを完了させましょう。
相続税申告はご自分ですることもできますが、申告手続きは多くの特例があるなど複雑であり、仮に不備があると税務調査の対象になるリスクもあります。
相続税申告が必要な方は、相続に強い税理士に相談されることをおすすめします。
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